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伝統的な生活の限界
マンニャン族は半遊牧民です。一か所に定住することがなく、集落の構成メンバーも常に入れ替わっています。このような流動的な社会を構成し、山奥に居住していても外の世界と無関係に過ごすことはできません。低地フィリピン人による居住地への侵入、不法伐採業者による山の木の伐り出し、共産ゲリラの脅威など、もはや伝統的な生活を営み続けることは不可能となってしまいました。今、マンニャン族は伝統的な生活を続けて滅びるか、定住して生き残るかの二者択一を迫られているのです。
多くのマンニャンは定住への道を選び、山奥から低地のアムナイ川流域へと移住し、そこに集落を形成しようとしています。しかし、連帯とかコミュニティーといったものを形成した経験のない彼らに村落を形成し、農業を営むというのはわれわれが想像する以上に困難なことで、21世紀協会のミンドロにおける15年は日本側、マンニャン側、そして、一般フィリピン人側にとって、衝撃的なカルチャーショックと仰天の連続でした。
そんな中、マンニャンの人々も少しずつ教育の必要性、定住の必然性を理解するようになる一方、われわれも識字の普及、農業技術の確立、村落の形成といった当たり前と言っていいような基本的なことがらが一筋縄ではいかないということを認識するようになりました。亀の歩みよりももっとゆっくりですが、確実にマンニャンの社会は変わろうとしています。
ただ、最近はマンニャンの人々を脅かす要素が加速度的に増え、ゆっくりと着実になどとのんきなことを言ってもいられない状況となってきました。人々に連帯を促し、外部からの脅威に立ち向かう力をつけることは急務となりました。外部の力ある人々に「やられっぱなし」の現状を打開し、マンニャンの人々の権利を守り、山を取り巻く環境を保全、あるいは、回復するため、協会は主要なマンニャン集落の点在するアムナイ川流域の各集落を回り、長老や村長と協議してきました。
3つの安心
そして、飢えない安心、恐怖におびえない安心、病気にかからない安心の「3つの安心」をめざして、アムナイ川マンニャン人間の安全保障会(Amnay
Area Mangyan Conference on Human Security)が結成されました。虐げられた人々が自ら立ち上がり、自らの力によって今の不自由な現状を打開するための連帯です。具体的対策としては、識字教育を入り口とする基礎教育の普及、衛生環境整備による乳幼児の死亡率低下と感染症対策、農業指導とコミュニティー形成といった従来から協会が掲げてきた事業を展開し、住民の力を養うとともに、リーダを育てることになります。
識字率が限りなくゼロに近い人々にとってはかなり野心的な目標ですが、すでに15年間この地域で教育と農業を中心とした事業を展開してきたため、若いリーダー層が少しずつ育ってきています。協会の事業も今や若いマンニャンボランティアのパワーに大きく依存するようになっています。北から南へ、外部から内部へ、事業の主体が少しずつ移っていく過程で、マンニャン族の人間の安全保障が確立されていくことを願います。
(池田晶子)
《サンサーラ》33号 2005.1.5初掲
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